マンションの「安全神話」は崩壊した

2011.10.21

JR神戸線はその日、大阪駅から甲子園口駅までのあいだを、仮復旧で折り返し運転していた。依然として、神戸方面への全線開通のめどは立っていない。目的地の三宮までは、代行バスを利用することも考えたが、私はとりあえず甲子園口駅で降り、その先を徒歩で現地まで移動することにした。目的地までは、直線距離にして20キロメートルほどである。だが、調査は被害の小さな地域から大きな地域へと、順番に進めていくのがもっとも効率的だと思えた。

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とすると、やはりバスの車中からでは街全体の様子を把握できそうもない。甲子園□で、電車から一歩ホームに降りた私の目に飛び込んできたのは、構内のあちらこちらに走っている亀裂だった。想像していた以上に隆起や陥没も激しい。すでにコンクリートが割れ、崩れかかっているところもある。常に足元に気をつけて歩かないと、すぐにつまずいてしまいそうである。甲子園口駅の改札を抜けて、北口から外へでると、左正面に小さなスーパーがみえた。すでにスーパーは営業を再開していたが、周辺の店はまだシヤッターが降りたままだ。あたり一面にガラスの破片が散乱し、看板が落ち、自動販売機が倒れたまま転がっている。何もかもメチャクチヤだ。かろうじて営業を再開していたそのスーパーも、店舗のなかは、きっとひどいありさまだろう。壁面に大きく亀裂が入り、店先のひさしは地面すれすれに折れ曲がったままぶら下がっている。どうにか残った1本のボルトだけが、ひさしを支えている状態だった。そのすぐ脇では無造作に段ボール箱が積み重ねられ、ペットボトル入りの水や食料のたぐいが売られていた。いつもなら大勢の買い物客でにぎわっているはずのこの商店街も、ほんの数人の客しか見当たらない。時刻はまだ午後の2時だというのに、あたりは妙に静かで人影もまばらだ。気味が悪いほどである。おそらく大半の人はすでに避難所へ移ってしまったのだろう。駅の反対側へむかうため、高架橋の下のせまいトンネルをくぐった。私は、海に沿って平行に走る2本の幹線道路、国道2号線、43号線方面を目指していた。国道を目指しだのは、その一帯のビルやマンションに、かなり損傷を受けたものが多いという情報を得ていたからだ。突然、目の前に、山のようなマンションの残骸が飛び込んできた。完全に横倒しになっている。おそらくは4階建てだったのだろうが、1階部分は崩れ、すでに跡形もない。2階から上の部分だけが、そっくりそのままの形で残っているが、まるでおもちや箱をひっくり返したかのようである。あらゆるものが散乱し、とても数日前まで人が住んでいたとは想像もできない光景だ。建物の黒いこげ跡は、倒壊と同時に発生した火災の痕跡にちがいない。いまだかつて、一度もこのような光景に出会ったことがなかった私にとって、目の前にある現実は、ひどく衝撃的だった。




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